交わした約束 20年後の再会 

シュッ!池の対岸目掛けてフルキャスト。まずはスプーンを用いて、広く浅くリサーチする。スプーンは古くシンプルな釣り道具だが、その金属の煌めきや泳ぎは想像以上の集魚力があり、ただ巻きで、広い場所を探り続ける様な釣り方にぴったりだ。初めてのポイント…底の地形や水深、ストラクチャーがどこにどう配置されているか…偵察も兼ねて、じっくりと狙う。ジリジリジリジリ。カーディナルのリーリング音が池に響く。ジジッ! 早速ヒット。ぐいぐいと岩魚特有の底に底に潜る引き。サイズは30センチといった所だろうか。「一投目でヒットするなんて、やっぱりすごいね。」「あっ!!」「??おお!?」ヒットした岩魚の約1メートル後方を今まで見た事ない大きさの真っ黒い影が追いかけ始めた。尺岩魚を捕食する勢いで、右に左に身体をくねらせている。「岩魚を食べる気なのか!?」その影は共喰いをしようと、池の底から姿を現したのだった。岩魚も大型になればなるほど、フィッシュイーターになる。顎は3つ口に発達し、その風貌は大蛇そのものだ。ヒットした尺岩魚が手前に来ると、自らのテリトリーを出たくないのか、また池の底に姿を消した。「なんだったんだ…」「鮎夢さん、今の魚は…。」「ああ、間違いない。ヌシだ。」呆然と立ち尽くしていると、ヒットした尺岩魚もいつの間にか居なくなっていた。雷に打たれた様な衝撃を受け、手足が震えた。伝説は確かに存在し、生きていた。その身体の震えは初めて岩魚を釣った時の感情そのものだった。         

 

                   続