交わした約束 20年後の再会

「………」水中で突然始まったドラマに、なすすべなく、ただ立ち尽くした。伝説を目の当たりにし、未知の領域が突如として、現実に浮かび上がってきた。信じられないという気持ちよりも、何か見てはいけないものを見てしまったかの様な恐れにも近い気持ちを抱いていた。父が生前言っていた、「岩魚は40センチ以上になると別の生き物になる。」という言葉。30センチでも充分に良いサイズだが、それがベイトフィッシュに見える大蛇の様な大岩魚を前に、その言葉の意味が良く分かる気がした。「早苗さん…」「鮎夢さん…」2人とも目を丸くし、見つめ合った。「伝説は確かに生きている」「はい。」60センチを軽く超えていそうな大岩魚、ULのバンブーロッドに、カーディナルでは圧倒的にパワーで負ける。「とりあえず、一旦宿に戻って、作戦会議にしようか?」「はい。そうですね。その方が良いです。」釣り具の準備もそうだが、いざ伝説を前にすると、気持ちの準備が間に合わなかった。自然は奥が深く、まだまだ我々人間が踏み入れた事のない未知なる神秘が沢山ある。怖くも嬉しい、なんとも矛盾した気持ちで山を降りた。

                 続