交わした約束 20年後の再会

カナカナカナカナ…。朝、ひぐらしの声で起きる。ひぐらしのくせに朝にも鳴くから、ひのででもある。トントントントン。土間の厨房から、何やら音がする。「あ、起きられましたね!朝ご飯が出来ています。」「おはよう、ふぁぁ、寝坊したんだね」流石の連日の釣行で疲れが溜まったのか、いつもより長く寝ていた。早苗さんが生簀の岩魚を何匹か捕まえて、塩焼きにしてくれていた。梅干しご飯に岩魚の塩焼き、豆腐とわかめのみそ汁に山菜の漬け物。これぞ日本人の朝食だ。「いただきます。ん!美味いっ!!」「まぁ、良かった!」岩魚峡の岩魚はフィッシュイーター化している個体が多く、身の臭みが少ない。一回冷凍して寄生虫を殺し、刺身で食べる人も居ると聞く。鮭の仲間である渓流魚、焼いても生でも美味しいのだ。「朝、少し投げてきたんです。」「おお、どうだった??」「ガサガサって音がしたから見てみたら、ツキノワグマが居たんです」「わ、危ないよ!大丈夫だった?」「はい、その場で気配を殺して、居なくなるのを待っていたら、何処かに行きました。」「無事でよかった」谷が深い岩魚峡。鱒だけでなく、野生動物も数多く生息する。この岩魚荘も郷と山の境界線を跨ぎ、山に建っている。野生の営みをなるべく邪魔しない事が、僕ら人間が出来る最低限の彼らへの配慮だ。近年は林業従事者が減り、郷と山の境界線が曖昧になり、野生動物達が街に出る。そうなると、危険な為、殺すしかない。こればかりは人間が起こしている事だから、いつも幾分、複雑な気持ちになる。人間は環境を壊して生きる生き物だが、同時にその知恵を使い、環境を守り、維持する事も出来る。その事を決して忘れてはいけない。「気をつけて、釣りをしよう」「はい。」

 

                    続