逆境に生きた青春 大海原への航海

 来る日も来る日も絵を描く生活が始まって、半年ほど経った時だろうか。ふとインスタグラムのアカウントを航海に関するものと、絵のものを分けようと決め、絵のアカウントを正式に作った。1週間ほど、過去の作品をひたすら写真を撮ってはアップを繰り返していた、ある晩の事。ピコン!とメッセージの音が鳴った。「なんだよぉ、こんな遅くに。変な詐欺メールでも来たか…???んんんんん?なになに」dear masuo paintings.I'm art curator from italia🇮🇹 your painting is very beautiful…

イタリアの美術館からの展示オファーだった。「渚さん、ちょっとちょっと、なんだかすごいよ。イタリアから正式な展示オファーが来た!」「まぁ、ますおさんやったね!私、あなたの絵、すごく素敵だと思ったもん。頑張ってよかったね!」苦しみの中で、夜な夜な描き続けた努力が、実った瞬間だった。頑張って良かった。体中が震えた。それも芯から震える様な魂の震えに近いものだった。どん底でもいつかいい事があると、歯を食いしばって生きてきた。舌に歯型がつくほどの感情を堪えて、居なくなりたいという自殺願望と闘いながらの、日も沢山あった。才能はどん底の中から、一筋の光を掴もうとした者に、授けられるのかもしれない。僕の芸術は、みな苦しみから逃れる為に、生み出し続けたものだ。しかしそれが今、幸福への大きな橋渡しになっている。それに気づいた時、心の中で今まで傷つけてきた海賊達を殺してやったくらいの、なんともいえない爽快な気分になった。ざまぁみやがれ。俺は貴様らが、傷つけてくれたお陰で誰にも生み出せない、唯一無二の芸術を生み出せる様になった。どんなもんだ。目には目を、歯には歯をでは、世界は滅びる。そして自分の心を蝕む。しかし、幸せに生きる姿を見せつける事こそ、最大の復讐なのだ。北風と太陽であれば、太陽になる事こそ、人を動かし、癒し、そして幸せが集まる。気づけば、周りには心温かな優しい人が沢山集まっていた。それが何よりも嬉しかった。「渚さん、ありがとう。君の支えのお陰で僕はここまで来れた。心から感謝したい」「ますおさん、頑張りましたね。私は貴方が元気になって、すごく嬉しいです」サカポワ島に辿り着いて時間が経つ中、僕は本当に変わる事が出来た。腐ってちゃいけない。僕の苦しい顔は、みんなを不幸にする。幸せになろう。そう決めた時、苦しい過去は、もうどうでもいいものになっていた。           続く。