逆境に生きた青春 大海原への航海 

なんというか、僕は昔から争いごとが苦手だ。幼少期より、運動会、マルかバツかをつけるテスト、通知表、目に見えるもので、人は価値を判断したがる。人目を気にして、優れているとか、劣っているとか、正直、そんなものはどうでも良い。好きな事をしていたら、結果として、人よりも色々な事が器用にできるなっただけの事。そんな僕が羨ましいのか、なんなのか、いつも周りには足を引っ張る様な奴がいた。どこのコミュニティに行っても意地悪な奴は存在し、決まってそういう奴は行動せずに、口だけの場合が多い。悪口や嫌がらせなんて、ぶっちゃけ猿でもできる。群れて、ギャーギャー騒いで、力づくで奪えば良いだけの事。そこにはなんの努力もなければ、想像力のかけらもない。自分はこんな事しかできませんよ!と自らの醜態を皆に曝け出しているだけなのだが、どうやらそれが分からないらしい。自分を棚に上げて、言い訳を並べ出す。かっこが悪いにも程がある。なんでも器用に出来る風に見える人は、影ながら人一倍、試行錯誤して、努力し、その栄光を掴み取る。そして、結果や実績という揺るぎない自信を手にしていく。それを応援する人に、足を引っ張ってやる、馬鹿にしてやるという浅はかな感情や争いは存在しない。上に行けば行くほど、そんな人は周りから自然と消えているのだ。サカポワ島にたどり着く前、色々な島や海域に出かけ、いろいろな人を見てきた。そしてそこにいるだけで、勝手にハブられる事が多かった。僕は普通にしているだけなのだ。でも何故かいじめられたり、避けられたりする。何か悪いことをしたかな…と思うが、全く見当がつかない。目立つ者、変わっている者を排除するのは、いかがなものか。お互いがお互いを認め合えば良いだけの事。歩み寄る努力をすれば良いだけの事だと思う。そう、最も力と知恵のない者がする事がいじめなのだ。何度、反面教師としてそれを学んできたかわからない。そしてその度に、心を傷めてきたが、もうそれはしなくて良い。サカポワ島に来て、かけがえのない人達と出会い、救われてきた。僕はもう一人ではない。そんな奴は一時的な、繁栄は得ていそうに見えても、結構上手くいってなかったりする。人を傷つけてやるという心の持ち主に、応援者など現れるはずがない。人生のステージを自ら、下げてしまっているのに、きっと気づいていないのだ。だから自分がされて嫌な事は人にもしない。人にして欲しいと思う事を、自分がやるのだ。「ますおさぁぁん、ますおさぁぁぁぁん!!」「はっ!?」「もう、また難しい顔してた。あんまり、思い詰めちゃダメですよぉ。」海を眺めながら、相当に考え込んでしまったらしい。気づかないうちに、なぎささんが、僕の隣に座っていた。「あぁぁぁ、なぎささん、どうしたの??」「今度、島で作品展が開かれるんです。よかったら、ますおさんも、参加しないかなぁぁと思って」「作品展??」「はい、結構皆さん参加されて、絵とか書とか、陶器とか、出展されるんですよぉ」「はああぁ」「何かやってみましょうよ」「じゃあ、昔少し描いてた絵でも、描こうかな」「はい、是非是非!」思えば、ずっと海賊と戦い続けて、じっと机に向かう時間が全く取れていなかった。勉強が好きな時もあったが、気持ちが戦いにばかり向いて疲弊していた。島に来て、落ち着いてきた為、やってみようかと思えたのだ。早速島の、いさか文房具屋に行き、紙とペンを買った。「描くっていってもなぁぁ。何を描けばいいのか…まぁ思うままに描いてみるか」にょろにょろにょろ。「うん、結構独特だ!」はたから見たら、子供が描くベロベロの様な絵だが、個人的には結構満足していた。「いゃぁ、久しぶりに紙に描いたけど、結構楽しいなぁ」「でしょ!??ますおさん、結構器用なんですよ??自信持ってください」「そうだね。色々あって、すごく不器用だって、思い込んでました。」「無理もないです。大変な中を生きてたんだから、出来ない事が増えてしまうのは、当たり前です。自分を守るのに、エネルギーを沢山消費するんですもん」「ありがとうございます。なんだか救われた様な思いです」島に来てから、少しずつ心の傷が癒えてきたらしく、自分でも前より色々な事がスムーズにできる感覚があった。「人の心って不思議ですね。こうやってまた、元気を取り戻して、できる事が増えていくんだから」「人間の脳みそってすごいんですよ。一度壊れても、他の部位がその機能を補ったり…。生きていくのに最も大事な臓器だから、壊れて、二度と治らないなんて事ないんです」「そうですね…。僕、ここに来てから、凄く思うんです。人を傷つけるのも人だけど、人を癒すのもまた人なんだって。だからぼくはこの島の人達を大事にしようって決めました」「凄く、嬉しいです」「僕ね、ずっとなんだったんだろうって温度差に悩んでたんです」「温度差??」「はい。今まで争いがすぐそばにあって、それが当たり前の生活でした。それが嫌で嫌でたまらなくて、離れた筈なのに、急に平和で何もない所に来ると、かえって落ち着かないんです。皮肉なもんですよね。きっと僕の脳は、争いこそが日常で、平和が非日常だと、錯覚していたんだと思うんです。きっとそれこそが心の傷なんだろうって」「ますおさん、苦しかったですね…。」「はい。毎日、その戦いの映像が蘇るんです。そうなると、もう苦しくて苦しくて…」第二次世界大戦から生き延びた兵士や、ベトナム帰還兵にも見られた心の病として、PTSD心的外傷後ストレス障害)というものがあり、戦争神経症とも昔は言われたらしいが、後にぼくは島のカウンセラーから、そう告げられた。「でも、今、僕の周りにはこうして大事にしてくれる人が沢山いる。それがとても嬉しいんです。」「ますおさん…」なぎささんは隣に座り、ポロポロと涙を流していた。僕の為に、こうして涙を流してくれる人がいる。そう思うと、落ち込んでなどいられなかった。みんなを笑顔にする為にも、元気にならなきゃ。それを決意してから、回復はみるみる進んだ。人はやはりどこか弱い。ぼくは、わたしは、傷があるから…と、そこに逃げ込む様になってしまう。抜け出すのは大変だが、それをそのままにしておく方がもっと大変で苦しい。そこから抜け出す為にも、畑の作業と並行して、絵を描く事にしようと、決めたのだった。                                続く