逆境に生きた青春 大海原への航海

「マスター!面白いコーヒー出来た??」「君に感化されて、僕も色々試す様になったよぉ」時間があれば、マルタカフェのカウンターで、絵を描いていた僕。目の前で色々と作品が出来ていくのを見て、どうやらマスターもコーヒー作りに一層気合が入ったようだった。僕は波動の話を思い出していた。ネガティブな波動でいると、ネガティブな人を引き寄せ、ポジティブな波動でいると、ポジティブな人を引き寄せるのだ。やはり人という生き物は、意識しなくても他人から影響を受けやすい。だからなるべく悪口は言わず、笑顔で居たいと、思う事が増えた。絵を描き始めてからは、尚の事そうだ。作品作りは、自分の精神状態に大きく左右される事が多いと分かった。それに渚さんを笑顔にする為にも…。「最近、コーヒーの淹れ方を変えてね。こうすると、ビスケットみたいな味がするんだよ」「へぇ、面白いね!じゃあ、サントスビスケットで!渚ちゃんはどうする??」「じゃあ、私も同じもので」「かしこまりました」マスターがいそいそと、コーヒーの準備を始める。「渚さんと居て、僕は学ぶ事がいっぱいあるよ。人を笑顔にする為には、どうしたら良いか、考える様になった。今までは傷のせいで、どうも人間関係がうまく築けなくて…。僕は貴方に沢山救われている」「まぁ、ありがとうございます。私も貴方に沢山救われているんですよ。貴方があちこちでこうやって人と関係を作って、私も会いたい人と出会える機会が増えました。私1人じゃとっても会えない人とか、話したかった人とか…」「なら、よかった。僕、ずっと暗くて、一緒に辛い思いをさせてしまった事を後悔していた。でも、貴方を笑顔にしたくて、元気になろうって、落ち込んでいるままじゃダメだって、思えるようになったんです。」人を笑顔にしたいという思いが、自然と僕の心に愛を育み、頑張ろうというモチベーションになっていた。気づけば、険しい顔をする時間が、かなり減り、顔つきもかわっていた。「ありがとうございます。とても嬉しいです。」見返したい!仕返ししてやる!と頑張るよりも、笑顔にしたい、幸せにしたいと思う頑張りの方が遥かに、穏やかで、気分が良い。隣の芝生が青く見え、やれ自分も…という日本人の良くない心の使い方にも、僕は疑問を抱いていた。しかし、その答えがここにある様な気がした。人から学ぶ事は、沢山ある。人付き合いは学びの連続だった。良いなと思う人、なんだこいつ…と思う人、悪しきは反面教師に、良きは自分の手本に。この歳で、これに気づけた事は大きな大きな財産だった。傷つけられた事を肯定はしないが、傷つけてきた奴らのお陰で、自分の心と向き合い、人を観察する力が物凄くついた。心の使い方についても、随分と考える機会が増えた。傷つけてくれて、ありがとう!と開き直ったら、奴らはどんな顔をするだろうか。そう思うと、なかなか面白い気分になった。「お待たせしました。サントスでございます。」「まぁ、美味しそう。」「これがすごく美味しいんだよ、頂きまーす。」日が沈んだ入江のほとりで、さざなみの音を聴きながら、飲むコーヒーは、最高に美味しかった。「いい、時間が来たな。生きてて良かった。」月明かりが静かに、夜の訪れを告げていた。          続く。