逆境に生きた青春 大海原への航海

なんだか、傷を受けるたびに、何か頭の中でのひらめきの様なものが、冴える様になった感覚があるな…。マルタカフェで絵を描く度に、それをひしひしと感じる様になった。なんというか頭の中のイメージを形にしたい…そう強く思う様になった。なぜそうなるか気になった為、心について勉強をしてみる事にした。ちょうど良さそうな本が公民館にあったので、手にとってパラパラとめくってみた。すると…心的外傷後成長という言葉にたどり着いた。「心的外傷後成長??なんだそれ??」心に深く傷を負った後、創造性が高まったり、精神的に強くなる事を…「僕に今起きているのは、これか!!」自分に起きている事に、ピッタリと当てはまるじゃないか。PTGとも言ったりするが、歴史は古く、第二次世界大戦時、ナチスドイツのユダヤ人迫害等、辛い思いをして生きながらえた人々が、良いアートを描いたりという事象がかなり見られたらしい。人はあまりにも強いストレスがかかると、どこかに逃避をしようと、精神世界の開拓に集中する事で、自分の心を無意識に守ろうとする働きがあるのかもしれない。理不尽な思いをなんとか力に変えようと乗り越える時に、授かるのが、創造性なのかもしれない。そう、知恵の実を食べた、我々人類が作り出した誰も傷つける事ない、癒しをもたらすものが、芸術という分野なのだ。「確かに、傷は負いたくなかったけど、それによって得られる力もあるのか。」変に納得している、自分に気がついた。と同時に、傷なんてない!!と必死に抗うよりも、まぁこんなもんだよねと、自然体に構えると、治癒が進んでいく事に気がついた。頑張る事も大事だが、力を抜く事もまた、前を向く重要な要素なのだ。また矛盾しているかもしれないが、悔しい!理不尽だ!という思いは強いエネルギーだ。這い上がる時に、生じる、見返してやるという思いは目を見張るものがある。とも感じた。傷だっていかしよう。苦しむのではなく、その傷をいいように利用してやればいいのだ。そう思うと、なんだか乗りこなせている気がして、かなり楽になった。「僕はこれを前向きなものにしてみせる!!」「わぁぁぁぁ?どうしたんですかぁ?大きな声出して」「ああ、なきざさん、いたの??ごめんね。びっくさせちゃって。実はこんな本を読んでいて…」「ますおさん、そんな勉強をされてたんですね」「意外?」「そんな事ないです。真面目な方だなぁって、ずっと思ってました。それになんでだろうって、私も沢山本を読みましたから。まさおさんが島に来られたばかりの時に、少し話しましたけど…」「ああ、そうだったね。」「2人とも、人に見せない様にするし、そういうのって中々話しづらいですよね。だからその気持ちが良く分かるんです」「きっともう、良い事しかないよね」「はい」一人でも、二人でも、同じ事を共有できたら、心強い事この上ないのだ。3人になり4人になれば、ピアとして、グループができる。そうなればもう、怖いものなしだ。「いやぁ、なんか、じっくり勉強したら疲れたよ。どう、これからコーヒーでも」「行きましょー♪」西日が窓から差し込み、柔らかな暖かさを背中に感じながら、その場を後にした。燃える様なオレンジ色の夕焼けが、僕ら2人の影をより濃く、作り出していた。              続く