逆境に生きた青春 大海原への航海

カキカキカキカキ。スラスラスラスラ。昼間は農作業、夜は絵描き。「うん、悪くないな」紙にペンを走らせると、不思議と心が軽くなった。無心で描き続けるため、ある種の瞑想状態に近い、精神統一ができる感覚があった。「それにしても、僕にこんな才能が眠っていたんだな」自宅として、借りている古民家だと、怠けてしまう為、島のマルタカフェで絵を描く事にした。「マスター、グアテマラ」「はい、かしこまりました」店内でかかるBGMが僕の創造性を刺激した。時折、コーヒーをすすってはまた絵に集中する。すると、カウンター越しにマスターがこちらをチラチラと見ていた「??」「ああ、ごめんね。実は僕は、昔グラフィックデザインを教えていた事があってね。絵には興味があるんだ。君は、バランス感覚にとても優れているよ。誰にも教わらずに、それが描けるのはすごい」「え??ありがとうございます」昔から、携帯で写真を撮る時など、構図のバランスには気をつかってはいたが、ここまで誉めてくれるとは思わなかった。嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。気難しくて、中々人を褒めない人かと思っていたが、親しくなると結構色々な事を教えてくれる。人は見かけで判断しては、いけないなと思った。「マスターは、昔からコーヒーがお好きで??」「あぁ、僕も若い頃ね…」その後も、この喫茶店に通う事になるのだが、その度に、植物の事、山の事、音楽の事、車の事、色々な事を教えてくれた。お客さんが沢山だと、余裕がなくなり気難しさが増すのがまた人間らしい。「マスター、また来るよ!」「ありがとうございました」共通の趣味だったり、興味関心があると、それを話題に人の距離はぐっと縮まる。好きなものが沢山あるのは、つくづく素晴らしい事だなと思った。               続く