逆境に生きた青春 大海原への航海

どすっ!どすっ!どすっ!「あー今日はこの辺にしておこう」たどり着いたサカポワ島で、何かしなければ…と、農業のお手伝いをする事にした。船は直ったものの、トラウマもある。また漁に出るのは、身体が受け付けなかった。じゅう寿司から近くの場所に、この島一番の広さを誇るネギ畑がある。農業と漁業がこの島の主な産業で、島民のほとんどが観光客向けの店を経営する傍ら、生活の糧としてこれらに従事している。なれないクワを使い、土を耕す。「おーい、お前さん、そんなにこんつめると、体を壊すよー」畑のすぐ近くに住む、カタコ婆さんだ。この畑を守ってきたいわば、この土地のドン。しっかり者で少々口がキツく、島民からは、組長というあだ名がつけられている。「あぁ、カタコさん、こんにちは。今日は少し暑いですね」「ああ、なんだいお前さんのそのクワの持ち方は」「すみません、なれないもので」「貸してみなさい、こうやるのよ」カタコ婆さんは、歳を感じさせない、素早い動きで僕の何倍ものスピードで畑を耕して行った。流石、この土地を守ってきただけあり、熟練された手つきだ。「ま、こんなもんだな。ほらお前さん、ぼけっとしてないで、小屋から肥料を持ってきてくれ」「はい、わかりました」畑の脇にある農作業小屋に向かい、肥料が入った袋を一輪車にいくつか載せて、畑に運んだ。「ばぁちゃん、持ってきたよ」「あぁ、ありがとさん。じゃ、お前さんはそこの畝にそってそれを撒いてくれ」「はいっ」海と違う、土に触れる作業。やっぱり、人の根底には農耕民族として、生きていた血が流れているのだろう。開墾し、耕す作業が、とても充実したものに感じられた。肉体的にはしんどかったが、不思議と苦ではなかった。ひとしきり肥料を撒き終え、一服する事にした。「そーいや、お前さん、なんでこんな辺鄙な島に来たんだい?若いおなごも、そんなにおらんのに」「いやぁ、少し…」表情を曇らせる姿を見て、何かを察したのか「まぁ、ゆっくりしていきなさい」と小さく呟いた。とそこに「にゃーー!」「??」「おお、まさむね、ここにおったんか、ほら、これをお食べ」カタコ婆さんは、おもむろにポケットから煮干しを出して、その猫にあげた。「にゃーーーっ!!」まさむねと呼ばれている猫はパクパクと夢中で煮干しを頬張った。野良猫にしては、大柄で妙に人を怖がらない部分がある。きっとこうやって島を練り歩いては、人から餌をもらっているのだろう。愛想よく、腹を見せて、撫でさせている。僕は島ネコと、勝手に呼ぶことにした。「お前、まさむねか。中々良い名前を貰ったな」「しゃーーーっ!!」「初対面だもんな。ごめんな。」思わぬゲストに、また心が少し和んだ。「よし、今日はこの辺にしておこう。まぁお前さん、あんまり、思い詰めなさんな。人生まだまだ長い」「はいっ、婆ちゃん、ありがとう」組長という変なあだ名こそついているが心根はすごく優しい、繊細な人だ。良い出会いに感謝して、畑を後にした。                続く