逆境に生きた青春 大海原への航海 

きゃーっ!助けて!母と乗っていた船が航海中、海賊の攻撃を受け、沈んだ。運良く僕は、救助されたが、母は1ヶ月後、遺体となって発見された。気持ちが塞いだ。ひたすらに塞いだ。二度と、海になんか行かない。まだ3歳の時の出来事だった。沈みゆく船の中で、母は必死だった。少しでも空気のある所をと思い、船の中を動き回った。あろう事か救命ボートも破壊され、海も大しけ。もし外の海に逃げ出しても、波に呑まれるか、まだ近くをうろつく海賊に捕まるかのどちらかだった。若い母が辱しめを受けるのは、目に見えていた。そんな選択肢は考えられなかった。乗組員の寝室が、まだ水が来ておらず、そこにこもった。「大丈夫よ!私が居るから。」母も相当に怖かったろうに、僕を励ました。ざざざざざっ!廊下に浸水してきたのが分かる。足元に、少しずつ水が溜まる。「大丈夫よ!絶対に大丈夫」寒さで震えながら、必死で僕を抱き上げた。水に浸かり、低体温にならない様にと、僕を持ち上げ続けた。残酷にも、水かさはどんどん増し、母は溺れて、意識を失った。さなえさん!しっかりしろ!仲間の潜水士が、助けに来た時は、時すでに遅しだった。母はまだ25歳だった。ギリギリのタイミングで、救助された僕は、助けに来た船の中で、お母さんは?お母さんは?と、みんなに聞いて回った。「お母さんは、今別の部屋に居るよ。港に着いたら、会えるかな」 嘘だ。僕を悲しませない嘘だ。子供ながらに、潜水士さんの表情から、分かった。泣き崩れた。「どうしました?表情がとっても暗いですよ」「あぁ、すいません。ちょっと。」喫茶店を後にした、僕は、夕日が沈む海を見ながら、思い出していた。相当に暗い顔になっていたのだろう。なぎささんが、心配そうに見つめていた。「大丈夫です」「なら、よかったです」後に、この事を話したのは、彼女と結婚してからの事だった。「海、綺麗ですね。」「はい、とても」入江の砂浜に、静かに打ち寄せる波が、夕焼けのオレンジ色の、空と相まってとても美しかった。この島で、みんな忘れてやり直そう。そう決意した。「なぎささん、釣りはした事、ありますか」「ないですね。」「よかったら教えますよ」「良いんですか?」「結構、楽しいですから。船を直してもらったお礼も、してませんし。それにこの入江は、結構魚が居そうです」「じゃあ、是非♪」こうしてサカポワ島での生活が始まった。    続く。