交わした約束 20年後の再会

「よっ!」パコン!「それっ!」パコン!「いやー、ちょっと休もうかな。」炊き出しに使う薪を朝から、小1時間割った。カラカラカラカラ。「おはようございます」「おお、起きられましたか。」「いい朝ですね!うわぁーっ!!」岩魚荘の朝は、眼下に雲海が広がる。当たり前に育ったから、なんとも思わなくなっていたが、やはりここからの景色は壮大で美しい。朝日に照らされた雲が、渓谷を埋め、ややピンク色がかったグラデーションで1日の始まりを告げる。「綺麗でしょぉ」「はい、とても」沢の音と、野鳥の声。都会の雑踏とはかけ離れた静かな朝だ。「コーヒーが入ってます。よかったらどうぞ」「ありがとうございます。頂きます。」一仕事終え、雲海を見ながら飲むコーヒーは格別に美味しかった。「そういえば、お名前をお聞きしてなかった。大人1人でのご予約でしたから」「わ、そうでしたね!私、早苗と言います。」「早苗さん、宜しく。岩魚荘の4代目主人 鮎夢です」「宜しくお願いします」大学の夏休みを使って、岩魚峡の大岩魚伝説を解明する為、3週間ほど滞在するらしい。「釣りの準備はお済みですかな?」「はい。」まずは、隠れ堤に案内する事にした。「前ノ沢には隠れ堤があるんです。良ければそこに行きましょう。昨日の雨で大物が動いているかもしれない。」「是非!」朝食を済ますと、早速山に向かった。

                   続く