交わした約束 20年後の再会

ドドドドーッ!隠れ堤に近づくにつれて、沢の音が大きくなる。「水の音が聴こえます!」「もう少しですよ」木々の間から差す僅かな光に、顔を照らされてはまた影になり、また照らされながら、意気揚々と2人歩を進めた。静寂と水音。山奥特有の緊張感は、大岩魚への期待を膨らませた。自然は癒しと恐れを感じさせる。安らぎと、恐怖。同じ、川や山でも、驚く程表情が変わり、厳しくも優しい矛盾した面を持つ事が、僕たち人間に様々な学びをもたらす。そんな山や川に懐かしさを感じ、吸い寄せられる様に、都会から帰ってきた。「さ、着きました」「わぁぁぁぁぁぁ」隠れ堤は、僕たち2人を穏やかに迎え入れてくれた。早速、パックロッドを組み立て、静かに釣りの準備を始める。「おおお、見たこと無いルアー!もしかして、ハンドメイド??」「はい。私、大学の勉強をしながら、趣味でルアーを作ってるんです」「それは楽しそうでなにより」自然を見つめる優しい眼差しと、ワクワクした彼女の表情を見て、なんだかこちらまで嬉しくなった。「じゃあ、そのテストも兼ねて釣ってください」「はい。素敵な場所に案内していただき、有難う御座います。」バンブーロッドに、古いアブのカーディナル、それにハンドメイドルアー。面白いタックルセッティングだ。都会生活に疲れた頃、釣りの道具を調べていた時期があった為、なんとなくだが分かった。「さぁ、釣りますよ!」独特のサイドハンドキャストから放たれた、ルアーが静かに堤の奥に消えていった。

 

                   続く