交わした約束 20年後の再会

ライナーに飛んでいったルアー。どこまでもどこまでも飛んでいきそうな勢いだったが、自然なサミングで、着水音が相当に抑えられていた。飛び込み選手なら、審査員が全員、最高評価をする様な惚れ惚れする着水だった。キャストから、サミング、そしてリーリング。大学生と聞き、少し見くびっていた部分も正直なくはなかったが、その思いは全ていい意味でかき消された。ベールフリーでルアーを沈め、カウントダウン。5秒ほどフリーフォールの後、ベールを返し、細かいトゥイッチング。ジージーと古いカーディナル特有のリーリング音が響く。「あっ!」思わず、声を出してしまった。右に左にフラッシングするルアーの後ろを、かなり大きな影が追いかけ始めた。呼吸が止まり、意識が水面に釘付けになった。キラッ グワン。キラッ グワン。鱒の闘争スイッチが100%剥き出しになっている時の追いかけ方だ。ルアーの後方 10センチあたりに、閃光が走り続ける。コンスタントにリズミカルにトゥイッチングを刻み続ける。口を使わせたいと思い、リーリングを辞めたり、スピードを緩めたいと、思う所だが、そのままの速度で、誘い続ける。まるで世界がここにしか無いような、全てが吸い込まれるそんな感覚に陥りそうなその時。「よしっ!」バイト。バンブーロッドが大きくしなった。やはり大きい。堤の底から、ぬぅっと現れた鱒は50センチはありそうだった。「大きいな!!さなえさん、慎重に!」「はいっ!」堤の中を縦横無尽に走る鱒、鼓動が高鳴りアドレナリンが全開になる瞬間。今まで静かだった森がざわつき出し、生きとし生けるもの、生命の躍動を心の底から感じる釣り人にしか味わう事の出来ない時間が過ぎた。「やっぱり居ましたね!!」50センチを超す大岩魚が横たわった。「まさか、1投目で口を使うとは…」「ここまでコンディションの良い個体が釣れるんです!伝説は実在しますよ!」「そうだね。」50センチを超す岩魚もそう易々と釣れるものではないが、岩魚峡という名前なだけあり、大物が多く生息している。「よし!僕も釣るぞお!」「はい!」大岩魚をリリースし、また静寂に包まれた森で、大きく息を吸い込んだ。

 

                  続く。