交わした約束 20年後の再会 

「おーい、鮎夢、釣りに行ってみないか?」「父さん、いいの?行く行く!!」まだ小さいから危ないという理由で、中々渓流に釣れて行ってもらえなかったが、小学2年の夏休みの自由研究、「川の生き物達」をテーマに岩魚峡を初めて探検する事になった。ルアータックルは子供の僕にはまだ難しく、延べ竿を使った脈釣りスタイルでの釣りだった。竿に伝わる僅かなアタリと、目印の動きを見て、アワセを決めるこの釣り方。仕掛けこそシンプルだが、魚釣りの基礎中の基礎とも言える感覚を身体で覚える。初心忘れるべからずという言葉の通り、子供の頃に培った感覚やセンスは大人になっても生きてくる。むしろ小難しい理論や理屈を知らない子供の方がより吸収も早く、上達する。大人になると知識や常識と言ったものがどうしても先行してしまいがちだが、伸び伸びと自由な感性で自然の中を探検した経験が、心の栄養になっていたのが今となっては分かる。人間としての礎をこの釣りが作ってくれたのだった。「鮎夢、合わせろ!」「わぁっ!大きい!!」初めて釣った岩魚は手が震えるほど嬉しく、その魚体の美しさに目を奪われた。途中、湧き水を飲み、その水の甘さに驚いた事。大人になった今から振り返ると、行動範囲こそ狭いもののそこから吸収するものや、感動が沢山あった。歳を重ね、社会に出て、人と比べ、競争し、そんな感覚は隅の隅に追いやられていた。でも今は違う。忘れてきたものは、探していたものは、他でもない自分の心に眠っていた。それに気がついたのだ。ヌシが潜む池を前に、セピア色に掠れた記憶が急速に色づき、カラフルに鮮明なものとなって目の前に広がったのだった。

 

                  続