交わした約束 20年後の再会

メインの林道を歩き続け3時間。後ろを振り返ると太陽が山間から、顔を覗き始めた。「日の出だね」「はい。」9月も半ばに差し掛かると、朝は15度まで気温が下がるが、日の出と共に、少しずつ気温も上がる。お天道様に一礼し、今日の安全を祈願した。「ポイントまでもう少しかな。父が記した薮群生地帯はこの辺りの筈。にしても水の音が聞こえない??」「おかしいなぁ、滝なら音が聞こえると思うんですが…」僕は滝がある事実を疑い始めた。そもそも、この釣り人が多い岩魚峡に置いて、滝があるなら既にその場所は発見されていてもおかしくない。だとするならば…。耳を澄まし、意識を音に集中させた。聞こえるのは、木のざわめきと、野鳥の囀りに、鈴虫の鳴き声。もっと意識を集中させる。すぅーっと息を大きく吸い込み、ひたすらに周りの音に耳を澄ます。サワサワサワサワ。ジーッ!ジーッ!。リンリンリンリン。ザーッ。サワサワサワサワ。「??」木々や生き物達の音の間に微かに水の音が聞こえた気がした。可能性があるとすれば…湧き水、もしくは土砂崩れ等で堰き止められて出来た天然の池か。水の音が聞こえた方向に向かい、薮の中を突っきる事にした。「早苗さん、薮はパニックを起こしやすい。深呼吸して冷静に進もう」「はい!私、他の河川でも藪漕ぎの経験があります。落ち着いて行きます!!」背丈以上の高さまで成長した薮に分け入る。四方を囲まれると、呼吸が圧迫される様な息苦しい感覚に陥る。パニックを起こす前に、決めた方向に一気に突っ切る。ザワザワザワザワ。「大丈夫??」「はい!」5分ほど歩いただろうか。天然の要塞を抜けると、昔作ったであろう砂防堰堤が崩れ、土砂崩れが沢を堰き止めて出来た天然の池が姿を現した。「やっぱり!」「こんな所があったんですね!!」小さな枝沢が向こう50メートル程の場所から流れ込み、土砂崩れで流された木や岩が水の中に沈み、ストラクチャーになっている。周りは鬱蒼としていて、昼間でも薄暗い。岩魚峡特有の大木が日光を遮り、確かに衛星写真でも捉えるのが難しい理由が分かった。霧が立ち込み、いかにもヌシが居そうな空気感が漂っていた。「よし、ルアーを投げてみよう!」「はい。釣りますよぉ!!」

                  続