交わした約束 20年後の再会

大岩魚の存在がまた一つ証明された。脳内でカチリと歯車が回り、疑問が確信に変わる。伝説という類の言葉は信じる人と、信じない人 そもそも知らない人の3種類に分かれると思っている。人間関係によく似ており、自分の事が好きな人、嫌いな人、無関心な人のそれだ。僕はなるべく人生において、信じたいし好きでありたい。そんな生き方がしたい。好きなものを好きと言える心 不器用でもカッコ悪くても信じた事を貫く心 鱒釣りは人生観そのものを形作った。「鮎夢さーん??」「ぁぁ。」「難しい顔してどうしました?」「いやぁ、貴方の釣りに真っ直ぐな姿勢に、心惹かれました。伝説は本当にある気がして。信じ抜く事。言うのは簡単だけど、それを実行するのは容易い事ではない。でも、僕は伝説解明に出来る限り協力したい。そう強く思いました。」「嬉しいです。一緒にこの谷のヌシを釣りましょう!」都会の雑踏に紛れる内に、人の心を感じる事がグッと減った。人混みの中に居れど、皆我先にと闊歩し、世の中の誰かが作った幸福な像にしがみつく。毎日の様に黒服の波が駅から交差点へ、ビルの中へと流れこみ、自分もその波の泡の一部になる。人と人とのコミュニケーションは減り、毎日、パソコンやスマートフォンの画面と睨みっこ。そんな生活は次第に感情を失わせ、自らの人生で何を成し遂げたいか、何かを求めて始めた筈の都会生活に次第に、嫌気が差していた。今の時代、田舎に居ても必要なモノはひとしきり揃うし、豊かに暮らせる。何よりも、自然の中に身を置き、全てを忘れて鱒を釣る事のみに集中する。そんな時間が置いてきた何かを思い出させてくれる気がした。紅に染まり始めた、岩魚峡。燃える様な夕陽が今日の釣果を祝福し、僕の心に新たな彩りを加え始めていた。

                   続く