交わした約束 20年後の再会

チリン、チリン。縁側にある風鈴が谷から吹くそよ風に揺れ、遠く見える入道雲は大きく、時折鳴く野鳥の声が、心の透明度をまた一段とクリアにした。岩魚峡…当たり前が当たり前で無い事に気づき、改めて自分の周りの自然はとても貴重である事に気付かされた。灯台下暗しとはその通りで、自分が求めていた幸せは案外足元に転がっている。青く澄んだ空はどこまでもどこまでも続いていて、縁側に寝転びそんな空を眺めていた。「あぁ、幸せだな」疲れた心も幾分癒えた頃、自分の心の豊かさがまた戻っている事に気がついた。飛行機雲が大空のカンバスに自由に筆を走らせ、時がゆっくりと流れた。「鮎夢さん!さっき川を眺めていたらね!」魚釣りに夢中になる少年の様に早苗さんは今日あった出来事、見つけた事を沢山教えてくれた。ふんわりと香るtシャツの匂い…僕は彼女に恋心を抱いていた。数年後、早苗は僕の妻になった。釣りに夢中になる姿に、子どもの頃の自分を重ねているのか、彼女の事を前から知っている様な懐かしい気持ちになった。「僕ね、早苗と出会った頃…なんだか前から知っていた気がしたんだ。子供の頃の自分を思い出したのが、そんな気持ちにさせたのかもしれないのだけど」「まぁ、偶然!私も岩魚荘の主人を始めたばかりの貴方に、私とよく似ている所があるなと思ってたわ」世の中には似た魂を持つ人が居る。それをソウルメイトやツインレイと言ったりするが、同じ想いを持つもの同士が必然的に同じ場所に惹かれ、集まるのかもしれない。彼女との出会いは20年前の自分との再会だった。         

                 続く。