交わした約束 20年後の再会

ゆらゆらゆら。スプーンがゆっくりと沈んでいく。岩魚峡の山奥で1人川面を眺める。長い都会生活で疲れた心身に、生まれ育った当たり前の風景がとても新鮮に感じられた。「俺は、何を求めて生きてきたんだろうな。本当は何がしたかったのだろう。」人の居ない山奥、ノイズが一切ない世界。自分を見つめ直すには、うってつけの場所だった。時折聴こえる野鳥の声がまた良い。こんなクソ田舎と思い、飛び出した筈の故郷に、答えを求める自分が居た。忙しさにかまけて、満員電車に揺られる日々。憧れた都会は、理想とは程遠かった。ぐわっ!ぼんやりとした内省の世界に突如として、銀色の煌めきが割り込んだ。「喰いついた!」急に思考から現実に引き戻された。大きな鱒がスプーンを咥えたのだ。ぐわんぐわんと流れの中をもんどり打つ。思った以上の引きの強さに慌てるも、慎重にやり取りをする。「川魚ってこんなに大きかったかなぁ!?」鏡の様な水面が、バチャバチャと音を立て、騒がしくなった。堤の端に掛かった鱒を誘導し、持ってきたランディングネットですくった。10年ぶりの故郷で釣った鱒は、40センチを優に超す、大岩魚だった。「大きいな!」顎の落ちた鱒はパクパクと口を動かしながら、こちらを睨みつけていた。「メインディッシュ確保。」小さくガッツポーズ。鱒を釣り上げると、不思議と清々しい気持ちになっている自分がそこに居た。「答えは見つかるかもな」両親を亡くした悲しみが、淡い期待に変わり、山を降りた。

                  続く