交わした約束 20年後の再会

ゴソゴソゴソ。「確かここにあったような…あ、あったあった。」父が使っていた書斎に、山積みになった書類。ありとあらゆる事をメモし記録していたのは、一見適当に見えるその姿からは、意外だった。徹底したリサーチと試行錯誤から生み出される余裕が、そう見せていただけだった。今となってはそう解釈ができる。やはり子供の頃に夢中で追いかけた背中は、間違いの無い尊敬する父の姿だった。山菜採りの場所が記録されたノートに伝説解明へのヒントがあった。「背丈以上の藪 群生地帯。視界悪し危険!!」流石の父親も入れなかった場所があった。藪というのはトラウトフィッシングを嗜む者にとって、避けては通れない。肥沃な土が、植物を大きく強く育む川原は、時に釣り人の侵入を難しくさせる。水辺を好むヨシがその良い例で、四方を囲まれると半ばパニック状態に陥る。進む方向を定め、一気に突っ切るが、好き好んで入る者はそう居ない。しかしピンチはチャンスとなる様に、入り辛いポイントほど釣り人からのストレスが無く、良い魚がかなりストックされている。天然の要塞にヌシはその身を隠し、大きく大きく成長する。伝説が居るとしたら…「早苗さん、父のノートにこんなものが書いてあったよ。もしかしたら、ここに伝説が泳いでいるかもしれない。」ペラペラペラ。「確かに、この場所は気になります!!」「少し怖いけど、装備を整えて、探索してみようか??」「はい!是非!!」そうと決まれば話は早い。オリジナルミノーの制作が終わり次第、探索する事が決まった。ありとあらゆる事を想定してルアーを作るとなると、1ヶ月はかかる。勝負は9月中旬頃。早苗さんと居る時間がとても嬉しく、1人きりで再会させた宿経営だったが、寂しさがグッと減り、心に響く夏になる予感がした。

 

                   続