交わした約束 20年後の再会

子供の頃は父と一緒に良く山に行った。父は何でも知ってるすごい人。この人について行くと色々な事を教えてくれた。植物の事、山菜の事、渓流魚の事。小さな体の僕にとって、それは山の漢そのもの。僕の憧れだった。思春期を迎え、街の子供達と遊ぶ様になり、山に入る事はめっきり減った。遊びの対象は釣りからテレビゲームやアニメに変わり、最新のゲーム機や家電がある友達の家が羨ましかった。そして古民家の自分の家をなんとも小っ恥ずかしく思う様になった。「あーあ、俺も街で育ちたかったな」トレンドを取り入れたお洒落な人々、夜になっても煌々と光るイルミネーション。「こんな所住んでいられるか!」何度そう思ったか、分からない。都会に出て時は経ち、本当の心の豊かさとはどんなものか。反芻して考える中での親の訃報。答えは山にあった。自分の父を変わり者と軽蔑していたが、帰郷し、鱒を釣っていると、父が生前教えたかった思いがなんとなくだが、少しずつ分かる気がした。「5センチで、7g!規格外の重さで滝壺を攻める!うーん、面白い!!」縁側でさなえさんが道具を広げ何やら盛り上がっている。「どうしたの??」「ハンドメイドの良さは市販品にないスペックのものを自分で作れるとこなんです!これで伝説を釣り上げますよ!!」それにしても、この人は面白い。自分の確たる美学があり、ブレない軸があり、釣りの一連の動作からそれはヒシヒシと伝わった。「心の豊かさか…」空一面に広がる天の川を見上げると、何やら父さんが笑っている様に思えた。

                    続