最終週 大岩魚との出逢い ドラマはそこに 後編

 素晴らしい出逢いに驚きつつも、何かが違うその日の川。僕の脳裏には、今シーズン活躍したミノーによるダートの誘い…、ヒラ打ちでもスプーンのフォールでも反応がなかったポイントから、ロングミノーをダートさせると突如として、川底から引ったくるように大きな鱒が喰いついて来た、梅雨のワンシーンを思い出していた。トゥイッチングでもただ巻きでもない、竿を煽り、ミノーが水中で大きくスライドする、第三の誘いの手として、今シーズン取り入れた泳がせ方がダートである。結んでいたスプーンをワレットにしまうと、今シーズン、煮詰め続けた自作ミノー、ファッティー60sにルアーチェンジ。中のウェイト配置にこだわりがあり、あえて少しアンバランスなセッティングにする事でミノーがバランスを崩す様にしてあるスグレモノだ。僕がルアー作りを始めるきっかけとなった鳥取県の伝説のルアービルダー 故 山岡 伸也さんのバレーノというダートミノーの記事を参考にしての、自作ミノーだ。彼はサクラマスで有名な千代川水系サクラマスがいるなら大きな本流ヤマメも居るかも知れないと、自分で開拓し、その存在を証明してみせた中々の強者である。ないなら作ればいい!誰もやった事がないのなら自分で確かめたらいい!そんな彼の開拓精神や釣りスタイルに強く感銘を受けた少年時代の僕がいる。そして僕自身も魚が居ないと地元の長老方から聞いていた川を開拓し、大岩魚、大山女魚の存在を確かめ、証明してきた。常識を疑ってみる事の大切さを教えてくれたのもこの釣りだ。僕は川に向かい自然に思いを馳せる一風変わった少年だったと思う。そんな姿が羨ましいのか、奇妙だったのか、僕を批判する大人が居た悔しい歴史もあるが、そんなの知ったこっちゃない。雑魚に構う暇はない。川面に向かい大きく息を吐く。ここで勝負がつく。いつになく騒がしい僕の第六感がそう告げている様な気がした。中規模堰堤の右岸側にできた反転流が形成するプールにミノーを投げ込む。ホームとする川に何度となくルアー打ち込んで来た、過去が走馬灯のように蘇る。さぁ来い!力強くミノーに命を吹き込む。水中で煌めく姿を見て泳ぎに満足していたその時だった。ゴクンッ!今までにない強烈な手応えが僕を襲ったのだった。これは相当大きいぞ!いつになく強い引きに、驚きつつも、興奮が込み上げる。思う様に結果が出ない9月の釣りを振り返ると、努力が報われた気がして、心底嬉しかった。ミノーを襲ったそのヌシは何度も何度も淵の底に逃げ込もうとした。ドラグを締めたり緩めたりしながら様子を伺う。すると少し疲れたのか水面近くに浮いてきた。鱒の顔が見え、三ツ口に割れた顎から、雄の大岩魚である事を確信。ヌシも僕の顔が見えたのか、また凄い勢いで住処に戻ろうと必死の抵抗をした。5分ほどファイトしただろうか。遂に観念したのか、そのヌシは僕のランディングネットに横たわった。やはりでかい!!秋も深まり、自然豊かな水系が育んだその大岩魚は特有の錆を身に纏い、大きな斑点は遠く北の大地の雨鱒を彷彿とさせた。発達した顎はフィッシュイーターそのもので、ギョロッとした目が僕を睨みつけていた。また河原に即席の生簀を作り撮影開始。このサイズになると、逃げようとする力も凄まじく、生簀の中で大暴れして、中々落ち着いて写真を撮らせてくれない。ちょっとだけだぞ!そんな声が聞こえた気がして、じっとしてくれた所をパシャり。良い写真が何枚か撮れたところで、ちょっとと言っただろうが!と言わんばかりにまた暴れだした為、生簀を崩して、リリースした。悠々と泳ぐその姿に逞しさと、鱒という生き物を超越した何かを感じ、少し怖さを感じた僕が居た。何はともあれ、ありがとう!!この素晴らしい出逢いを叶えてくれた故郷の自然に感謝の念が湧き、心からの最敬礼を川にして、その場を後にした。日暮れが早まり、少し薄暗くなった秋の河原には、出逢いの嬉しさと別れの物悲しさ、最高の釣りが出来たシーズンへの喜びが静かに漂うのだった。 完

発達した顎、体高 サイズ どれを取ってもヌシに相応しい