最終週 大岩魚との出逢い ドラマはそこに 前編

 秋、すすきが揺れ、赤とんぼが気持ちよさそうにとんでいる。青々としていた稲穂もすっかりと黄金色に染まり、収穫してくれと言わんばかりに首を垂れている。ポイントを目指し歩く足取りは軽く、爽やかな秋風が心地いい。鱒釣りができるのも今週で最後か。そう呟きながら川を見渡すと、いつもにはない生命感を感じていた。今日は何かが動く。僕の第六感がいつになく騒がしかった。選んだ場所は本流の中規模堰堤。下流には水深のある瀬が連なり、夏の間、そこで捕食をして大きく育った鱒が遡上して、魚止めになるであろう滝とその反転流が形成するプールに溜まる。そう予測しての選択だった。まずはスプーンで探ろう。今シーズン釣果がかなりあり、可能性を感じたルアーで探る。先人達が生み出した鱒釣りの道具。諸説あるが湖にピクニックに来ていた人が食器のスプーンを水面に落としてしまい、それに魚が食いついた為、出来たらしい。シンプルではあるが、その金属の煌めきと泳ぎに誘惑されて食いつく鱒は多い。流れの筋の向こう側にできた反転流を目掛けてキャスト。水面を漂う虫を演出する様に、細かいトゥイッチングをし誘いを掛ける。2投、3投した時だろうか。ゴボッ!ややオレンジがかった魚影が水面を割って出た。バイトには至らずとも、読み通り活性が高い事を知り、顔がふと綻ぶ。よし!いるぞ!ギアを一段階あげて、獲る事に意識を集中させる。次はこの手かな。上流側にスプーンをキャストし流れに乗せて、捕食を誘う。ドリフトと言い、流される虫や小魚を演出する様にルアーを流す技だ。3メートルほど流しただろうか。たるんでいたラインが不自然に水中目掛けて、一直線になった。すかさず竿を煽ると、ぐぐぐっと手応えが。フッキング!よし!鱒だ!してやったりの喜びと共にファイトを展開させる。下流の瀬に入られそうになるものの、やや強引に足元に手繰り寄せ、無事キャッチ!30センチ台後半の型の良い岩魚がそこに横たわった。いつもの様に河原に即席の生簀を作り、写真を何枚か撮りリリース。ありがとう。また逢おうね。素晴らしい出逢いに感謝して、住処に戻る岩魚の泳ぐ姿を眺め、いつもの様にニコニコしている自分がそこに居るのだった。でも今回はこれで終わりではなかったのだ。その出逢いは序章に過ぎず、更なるドラマが僕を待っていた。 続く

中々、型のいい岩魚。素晴らしい出会いに感謝したい