解禁から数日。とある大岩魚との出会い。

 思いもしない、精神的不調を受け、身も心も錆びつき、動かなくなってしまった僕。昔好きだった釣りにでも行こうか。重くなった心身に鞭を打つように、釣りの支度を始める。ロッド、リール、ルアー、ベスト、ウェーダー、これで良し。愛車であるマグナ50にまたがり、エンジンに火を入れる。久々の始動は少し時間がかかるも、流石はカブのエンジン。アイドリングが安定し、トコトコと小気味良い排気音が響く。さて、行くか。ギアを1速に入れ、目的の川へ向かう。約半年ぶりの外の空気は少しだけ、僕の目を覚ました気がした。

 3月の川はまだまだ冬枯れと言った様子。水量も少なく、水色はクリアだ。良さげな場所を探りながら、上流を目指す。冬の間に沢山の雪を蓄えた渓は、白銀の光を放ちながら、釣り人を暖かく迎えてくれている様に感じた。ここが最後かな。気がつけば、実績のあるポイントについていた。

 お気に入りのミノーに替え、まずはアップで第1投。反応なし。次はサイド、サイドクロス。これまた反応なし。おかしいなぁ、居そうなんだけど、仕方ないか。あきらめ半分でダウンで狙ってみる事に。ダウンで狙うのはリスクが伴う。本来、鱒達は流れに逆らう姿勢で泳ぐ。即ち、上流に顔を向けて泳いでいる。その上流に釣り人が立つという事は、それだけ鱒達に見つかりやすいという事でもある。しかし、その反面、ミノーを一か所に留め、長い間、アピールが出来るという、もの凄いメリットも得られる。諸刃の剣作戦とでも、言おうか。

 白泡の向こう側にキャスト。白泡が途切れるか途切れないかのギリギリの所でミノーを踊らせる。何度も何度も、ねちっこく誘いを入れる。やはり、季節が早すぎたか。そう思ったのも束の間、巨大な影がミノーを襲ったのであった。居たか!驚きと嬉しさが込み上げる。冷静に流れの横に戻り、無事にネットイン。40cmはあろうかという、岩魚がそこに横たわった。まだ錆が残り、少々グロテスクではあるが、大きな口が野生の迫力を醸し出している。カッコいい!決して人が作り出す事の出来ない、自然界の芸術作品。写真を何枚か撮らせてもらい、速やかにリリースした。

 やっぱり釣りは良いな。春の柔らかな日差しを背に、僕は川を後にした。f:id:keiryufish:20200812204412j:plain